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畳の目数の話

 

畳の目数の話……といっても、

 

普通の住宅では畳の目数なんて気にする人は、たぶんいないですよね。

 

 目幅の大小も、普通はあまり気にしないと思うし、

 

そもそも、畳の大きさがいろいろあるってことを知らない人も多いしね。

 

 

そんな畳の目数ですが、

 

これが茶室になると、ちょっと気になる…人もいる(という書き方にしときますね)。

 

 

茶室では、そもそも道具の置き合わせに畳の目数が目安になったりするので、

 

ネット上に、目数や目幅を気にする記事が増えることもわからないではないのですが、 

 

先日、現場で、茶室の事はあまり知らない…といっていた人の口から、

 

「茶室の畳は64目ですよね」と言葉が出てきたのでびっくりしたことがありました。

 

直接は関係ないのですが、

 

茶室絡みの仕事を受けて、すこし身近に感じるようになって、

 

ネットでいろいろ調べている時に、聞きかじった情報だと言ってました。

 

聞きかじった情報だから詳しくは知らないとも…。

 

 

それはいいとして、

 

最近、この畳の目の話を、私が関わっている現場で聞いたので、

 

 改めて 調べてると、

 

私が常々参考にしている何冊かの茶室の専門書で、

 

目数のことが細かく書いてあったのはたぶん1冊だけ(見落としていたらごめんなさい。)。

  

過去に調べたときも1冊だったけど、

 

少し本が増えた中でも、この点について言及しているのはその1冊だけで、

 

しかも、「茶室では64目と言われている…」程度の書き方。

 

決して、64目じゃなきゃだめ!とは書いてない。

 

 

じゃあ、この64という数字はどこから来たのだろう?…と調べてみても、

 

いろんな説はあるにしても、

 

私の乏しい知識では、その数字を明確にしている書物は知りませんし、

 

そもそもお茶って口伝で伝わって来てるものだから、文書がないのは当たり前かも…。

 

そうなると、いろんな人がいろんなことを書くだろうし、

 

どれが正しいのかもわからなくなって当たり前なのかな…と。

 

 

そんな状況を知らずに、

 

ネットで「茶室の畳」って 検索すると、簡単にヒットしちゃうから、

 

気になる人は見るだろうし、

 

強い口調で言い切ってるサイトを見ると、みんな信じちゃいますよね。

 

 

その割に、

 

正確にどこからどこまでが64目っていうのをはっきりさせていないサイトも多くて、

 

それにもいろんな説がある。

 

 

読んだ人もそこまで真剣に考えて読んでる人は少ないから、

 

64目っていうのだけが記憶に残ってしまう。

 

で、詳しいことは闇の中。

 

そんな感じなのかな…と思います。 

 

 

いろんな人が言ってることはみんなもっともらしいし話だし、

 

みんな正しく聞こえる。

 

だからみんな惑わされちゃう。

 

 

で、いろいろ考えたんですが、

 

そもそも畳って、座布団みたいに使われてた座具だし、

 

茶室で生まれたものでもないんだから、

 

最初からそんなに厳密に何目…とかって言ってなかったはずですよね。

 

目幅だって、手織と考えると織る人によって違う可能性だってあるし。

 

 

それが、茶室に使われるようになって、

 

64目って誰かが決めたのかもしれないけど、

 

そうなってるところとなってないところがあるはずなんじゃないかな…と想像します。

 

そもそも地域によって畳の大きさも違うんだから。  

 

 

そんなことを考えていたら、 ↓ の文書に行き当たりました。

 

  

「常習院殿ノ常ニ御物語ニ畳ニ本末ト云フ

 

 アリ多ハ人ノ知ラヌモノナリ本末ヲ吟味

 

 シテ敷タルタゝミハ少キモノナリ気ヲ付

 

 テ見ルヘシト仰ラレシカ真ニナキモノナ

 

 リ畳ノヌイ出シ方ヲ本トス目モロクニ子

 

 シレモナシヌイサキハ何トシテモ目モ半

 

 ニカゝリ子シレアル故ニ炉のキハ本ノ方

 

 ヲ敷カ子ハジタラクナルモノナリト仰ラ

 

 ル今モ幸雪常習院様御近習ナトカ能覚テ居テ畳

 

 屋カシカラレタリト申ス」

  

 

古文苦手なんですが、

 

『常習院殿は常に、畳には本末があって、多くの人は知らない。

 本末を吟味して敷かれた畳は少ないので、

 

 気を付けてみなければならないと仰ったが、本当にないものだ。

 

 畳の縫い出す方を本とするが、

 

 縫いはじめは目も正常でねじれもないが、縫い終わりは目も半分かかり、ねじれがある。

 

 故に、炉の際は本の方を敷かねばだらしないものだと、

 

 今も 常習院様のご近習である幸雪などが、

 

 よく覚えていて、畳屋が叱られたということです。』

 

ぐらいの意味だと思います。

 

 

これは、

 

江戸中期(18世紀初頭)の摂関・太政大臣であった近衛家煕の言行を

 

その侍医であった山科道安が記した日記である「槐記」の一部で、

 

ここでは、要するに、

 

特に炉の廻りは畳の縁が編み目の谷に合っていてねじれもない

 

「本」の方を合わせないとだらしない…と、畳屋が叱られた…と言ってる。

  

 

これを読むと、昔から同じような問題があったわけで、 

 

だから現代でもそれでいいんじゃないのかな…という今のところの私の結論。

 

 

畳の目の谷に縁がきっちり納まることを丸目、山に半分程度かかることを半目、

 

少しかかることを目乗り…とか言うようですが、

 

 

そういう言い方をすると、炉の廻りをちゃんと丸目にし、

 

あとは目につきやすい場所を丸目にしとけばいいんじゃない…ということ。 

 

 

まぁ、考え方や流儀によって、それはおかしいという人もあると思うけど、

 

一般的に流通している畳表でも明らかな間違いではなく、

 

特に炉の廻りにさえ気を付ければ済む訳だから、

 

気軽に使えるに越したことはないんじゃないかな…というのが理由。

 

 

もし、施主が64目でないといけないと考える方なら、

 

その時はそれに対応すればいい話かな…と思っています。

 

  

 

だから、以前お茶室のお手伝いさせていただいたお宅でも、

 

丸目にすべきところをちゃんと指定して、

 

炉の廻りは、ほとんどが丸目で一か所だけが半目になってる。

 

そう敷いてもらいました。

 

 

これでなんら不都合はありません。

 

 

ちなみに、私の手元にある茶室の本で、畳の目数が数えられる写真を探して数えてみた。

 

 

写真によっては、丸目か半目かを判別できないものもあったけど、

 

写ってる写真は、だいたいが丸目に近いように見える。

 

で、畳の目数を数えると(敢えてお茶室の名前は書きませんが)、

 

あるものは縁内62目、

 

あるものは縁内63目、

 

あるものは縁内64目…と、

 

古い茶室で文化財などに指定されているお茶室でも様々でした。

 

 

単純に、その畳を入れた畳屋さんが間違ってるだけ…と言われるかもしれませんが、

 

それでも大きな問題にはならないわけですから、それでいいのかな…と。

 

  

そんなに簡単な話ではないのかもしれないけど、

 

私としては、そんなに厳粛にとらえることもない問題で、 

 

まして、それが畳の金額に跳ね返ることを考えると、汎用の畳表で、

 

気を付けるべきところだけを丸目にしてもらうことが最善だと、今は思っています。

 

 

  

余談ですが、

 

畳の目数を改めて調べてみて、

 

その後いろいろ考えて、私が説得力があると感じるのは、下の二つの説。

 

 

いろいろ考えた末に、

 

すご~くシンプルに考えた結果導き出した、今の私の結論です。。

 

 

 

一つめは、建築の立場から。

 

畳は、京間なので畳巾(短手)が3尺1寸5分。

 

炉の大きさは1尺4寸角。

 

これは決まり事。

 

 

で、畳の縁巾を一般的な1寸とすると、

 

畳巾全体で63目にすると、一目が5分となり、

 

縁内59目となりますが、

 

炉の廻りも含めて、畳のすべての縁が計算上はすべて丸目になります。

 

これは、とっても計算上すっきりする。

 

だって、5分とか1寸刻みで物事を考えれば全て合ってくるんだもん。

 

こんなに便利なことはない。

 

 

63とか59という数字があまりきれいな数字ではないですが、

 

陰陽五行説では、奇数割だから、偶数の節に分かれることになって、駄目って言われるかもしれない。

 

 

でもね。これって竿縁や格子の割付の時に常にぶつかる問題で、

 

その時々の解釈で、節に分けるのか全体の間隔を割りつけるのかを使い分けたりしてるんですよね。

 

だから個人的には問題なし。

 

 

そんな、ちょっとだけ気になるところもありますが、

 

建築的には、すごくわかり易くて説得力があるようにも思うのですが、いかがですか?

 

 

 

で、もうひとつの方。

 

こっちは、茶道の畳の曲割り(かねわり)から考えてみる。

 

本当は、曲割り自体を私自身がちゃんと理解していないので、

 

あまり書きたくないんですが、

 

結論的にはこっちの方が説得力がありそうな部分もあるので、書いておきますね。

 

 

曲割りの理解は前述のとおり深く理解しているわけではないので、

 

今回は、手元にある茶室の専門書から

 

「道具の置き合わせなどの目安とするために、まず畳の縁内を6等分する」という、

 

曲割りの入り口に関する記述だけを参考にすることにします。

 

 

で、この縁内を6等分する時に、6の倍数だったら楽なのは明白。

 

…となると、縁内は60が一番近い。

 

 

縁内60目ということは、縁巾を1寸とすると、縁まで含めるとほぼ64目になって 

 

ここで64目という数字が出てくることになる。

 

 

63目だと一目はちょうど5分だけど、64目だと一目が4分9厘2毛。

 

二目分だと9分8厘4毛だけど、もうほぼ1寸。

 

ほとんど変わらないですよね。

 

たぶん1寸の縁をつけても丸目に見えると思います。

 

 

64という数字もきれいだし、

 

なんとなく、こっちの方が信憑性があるような気がしてきましたよね。

 

  

曲割りを深く理解していなくても書いておきたくなった理由がわかったでしょ。

 

 

でもね、ただひとつ、

 

炉の向こう側(炉廻りの短い方の縁)だけは少しずれるんですけどね。

 

 

この点だけは、全体が63目の方がしっくりくる。

 

 

 

畳の目数に対して厳粛なお考えをお持ちの方には、叱られそうな考え方です。

 

 

 

ですが、文化財なら別ですが、

 

昔のままをすべて正とする必要もないのかな…と思う部分もあります。

 

今、建てるんだなら、今の時代に合わせる部分も必要だと思っています。

 

だから、特殊な畳表をわざわざ作って使うことは、

 

施主のご要望がある時以外は、私は考えないと思います。

 

 

一般的な畳と値段が変わらなくて、普通に使えるなら別ですが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとうございました。